医療法人の事業承継 その1 ~持分あり医療法人について~


1 「持分あり医療法人」の「持分」について

 平成30年末の時点においても多数の社団医療法人が,「持分あり医療法人」です(平成19年4月以降は,この形態での法人設立は認められていません)。「持分あり医療法人」では,出資者には,出資額に応じた払戻請求権が認められています。

 この「持分」は,医療法人の成長にともなって大きな財産となっており,その取扱いが,むしろ課題となっています。「持分」を持った社員が退社にあたって,払戻請求をした場合,原則として医療法人はその払戻請求に応じる義務があります。また,社員に相続があった場合,「持分」はその社員の相続財産となり,社員の相続人は「持分」に対する相続税を負担することになります。仮に一部の出資者が「持分」の放棄をした場合は,他の出資者は贈与税を負担することになります。

 実際によくあります例は,医療法人設立当時,あまり意識しないまま,院長やその親族を出資者としていた場合です。このような場合,上記の税金の点のみならず,「持分」の分散や退社に伴う払戻請求など,事業承継に関わるリスクを抱えていることになります。

2 持分なし医療法人への移行

 対策としてまず考えられますのは,「持分なし医療法人への移行」です。厚生労働省が積極的に推進しており,税理士事務所からの提案を受けられたことがおありかもしれません。もっとも,この移行には,相続税,贈与税の特例措置についてハードルがあり,必ずしも容易な選択肢であるとは言いきれません。

3 「持分なし医療法人への移行」を選択しない場合の事業承継

(1)税金対策と事業承継対策は異なります

 最近,「せめて相続税を減らそう」という観点から,生命保険の利用や生前贈与を勧める書籍やセミナーが増えているように感じます。しかし,これらの税金対策は,事業承継の対策とは,必ずしも一致しません。税金対策に目を奪われて,遺言がないまま,推定相続人の公平を維持する方策を全く取らなかったことが原因で,大きな相続争いとなり,経営に支障が出かねない事態になった例もあります。

(2)生前贈与と遺言をベースとした対策

 「持分あり」を維持する場合,ケース・バイ・ケースなのですが,やはり,院長の「持分」については,生前贈与と遺言をベースとするのが最も穏当であると考えます。つまり,院長がお持ちの「持分」を,医業承継者に承継させつつ,他の推定相続人への配慮を行う方策です。

 今回の民法改正において,遺留分の算定にあたって持ち戻す「特別受益」が相続発生から10年以内のものに限定されたこと(2019年7月1日施行)により,遺言の活用方法は広がったといえます。

4 弁護士の活用方法

 事業承継とその先を見通すとなると,遺産分割や遺言執行についてのノウハウ・経験が必要となります。その観点から弁護士の活用は非常に有益であるといえます。

 弁護士が,顧問税理士の先生方,FP・コンサルタントの先生方と一緒に,様々なプランをご提案いたします。一度,弁護士への相談をご検討ください。


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