「オール歩合給」は可能か?
1 時代は「オール歩合給?」
本ニュースNO.20で「運送業『オール歩合給』は可能か?」と題する記事を掲載しました。多くの反響をいただき、関心の高さを実感しました。そこで、本稿では、オール歩合給にあたって検討すべきことを見ていきます。
2 労働基準法も「オール歩合給」を予定
実は、労働基準法(以下、単に「法」と言います。)に、オール歩合給を予定した条文があります。
法第十二条一項
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十(以下略)
(注:ここでいう「請負」とは一定の成果に対し賃金を算定する賃金支払方法を言い、民法の「請負」をさすものではありません。)
このように賃金を出来高払制とすることを予定する条文があるのです。
3 出来高「ゼロ」だと、歩合給も「ゼロ」?
例えば、小売店の店長を「オール歩合給」としたとします。「今月の売上がゼロだから、給与もゼロ」とすることは、可能でしょうか。
結論は、「不可」。最低賃金法に抵触するからです。店長(労働者)の労働時間に対して最低賃金を乗じた金額を下回ることはできません。したがって「ゼロ」はダメ、ということになります。(法定時間外労働があれば、割増賃金も必要になります。)
ところで、少し脱線します。最低賃金は2種類あることをご存じでしょうか。有名なのが「地域別最低賃金」。この他に、「特定最低賃金」があるのです。奈良県では、機械、自動車小売、木材・家具製造等の業種ごとに最低賃金が定められています。
4 最低賃金をクリアしても、「保障給」
最低賃金をクリアしさえすればOKという訳にはいきません。
法第二十七条
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
「最低賃金」=「保障」ではない、ということに注意が必要です。ここで問題となるのが「では、保障はいくら払うことにすればいいのか」。これについて実は法令の定めがないのです。どのように考えればよいか。参考となるのが、休業手当(法二十六条)。休業手当は平均賃金の60%以上です。休んでも、平均賃金の60%が確保されるのですから、歩合給(出来高払制)でも同程度とするのが目安となるでしょう。(「注釈労働基準法・労働契約法第1巻」(有斐閣))
また、少し脱線を。「平均賃金」と「通常賃金」の違い、ご存じでしょうか。平均賃金は賃金を「暦日数」で除したもの。「通常賃金」は賃金を「実労働日数」で除したもの。法律用語は難しいですね。
5 罰則
「保障」は、就業規則や労働契約等で「明記」しておかなければなりません。「払えばいい」というものではないことに注意が必要です。30万円以下の罰金に処せられることがあります(法百二十条一号)。
6 働きがい
藤木が会社員をしていた頃を思い出すに「出来高払」はモチベーションに効果的だと感じます。機会があれば、引き続き「オール歩合給は可能か?」検討したいと思います。