相続発生! そのとき 賃料は?(会社と相続ニュース No.2 2022年2月15日号)

相続発生! そのとき 賃料は?

1 不動産賃貸借と相続 ~賃料はどうなる?~

 不動産賃貸借に、相続はつきものです。これは、貸す側(賃貸人)にも、借りる側(賃借人)にも当てはまります。

 相続するかしないかが問題となるのは、貸す側では「賃貸人たる地位」、借りる側では「賃借権」です。ある賃貸人が亡くなった時、その者の賃貸人たる地位は相続の対象です。賃借人が亡くなった場合も同様で、賃借権は、原則として相続の対象です。民法上、いずれの場合も、死亡したことが賃貸借の終了事由と定められていないためです。

 さて、賃貸借といえば賃料ですが、賃貸人又は賃借人が亡くなった場合、その相手方は、賃料を、どうしたらよいでしょうか。以下では、賃貸人が死亡した場合と、賃借人が死亡した場合のそれぞれについて、ご説明します。

2 賃貸人の相続~賃借人は、どうしたらよい?~

 貸している不動産は相続財産です。取得者を決めるには遺産分割協議が必要になります。しかし、話し合いが進まない場合には、困った事態が生じえます。賃借人が、誰に賃料を支払えばいいのか分からないという事態です。

 これについて、最高裁は、次のとおり判断を示しています(最一小判平成17年9月8日)。

  • 遺産は、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有である。
  • 他方で、遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する。
  • 遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない。

 これは、賃借人にとっては、悩ましい考え方です。遺産分割がまだなされていない時点での賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として取得することになると、賃借人は、本来は、相続人それぞれに対し、法定相続分に応じて賃料を支払うべきということになります。賃借人が相続人全員を知っていれば、まだ良いですが、そうでないことも多いでしょう。

 ではこの場合、相続人全員を知っているわけではない賃借人は、どうすればよいでしょうか。一つは、債権者不確知を理由に、賃料を供託することが考えられます。しかし、現実的な話としては、共同相続人が、賃貸不動産から生じる賃料は遺産分割により不動産の帰属が確定した時点で清算することとして、それまでの期間に支払われる賃料を管理するための銀行口座を指定するという方法が考えられます。この方法は、賃借人が、賃料を誰に支払えばよいかという課題を解消し、また、遺産分割が進まないことにより賃借人が相続人間の争いに巻き込まれることを避けるのに有益です。

3 賃借人の相続~賃貸人は、どうしたらよい?~

 不動産賃借権は、相続開始により共同相続人による準共有状態となるため、取得者を決めるのに遺産分割協議が必要です。しかし、上記2とは異なり、賃貸人が、誰に賃料を請求すればいいのか分からないという困った事態が生じることは少ないです。不動産賃借権は、不可分債権とされているため(大判大正11年11月24日)、賃貸人は、相続人の一人に対して賃料全額を請求し、その支払いを受けることができるからです。

執筆:弁護士 市ノ木山朋矩
■ コラム ■

~かわいくない新入社員~

 藤木の社会人スタートは酒造会社でした。平成8年のことです。最初の配属先が本社で営業を統括する部署。当然、メンバーは選りすぐりのトップ営業マン。新入社員なんかお荷物でしかありません。入社面接で役員から「君は線が細そうだが、大丈夫か」と言われた私にとって、ハードなスタートでした。

 支社に電話をするときは、管理職にかける。しかし、支社の管理職も、藤木が新入社員だと知っているので「営業の現場も知らんくせに、無理なことを言うな」と怒る。私が支社を説得できずにいると、横の先輩が突如、私の電話のフックを人差し指で「プツッ」。私の顔を睨んで「あのさぁ、オレたち本社なんだよ。支社の言うことを聞くのがお前の仕事じゃないんだよ。支社に言うことを聞かすのがお前の仕事なの!」。説教されている間にも別の先輩が「藤木!さっきの支社の管理職から電話。めちゃくちゃ怒ってるぞ」。その後は記憶がありません。

 私が長時間電話をしていたときのこと。予兆なく、突如、座っていた椅子を蹴られました。不意打ちをくらい、腰が抜けそうになりました。先輩が電話をとって替わり30秒で電話を終了。「パワハラ」なんて言葉がなかった時代です。中高年世代のみなさまには、似たようなご経験がおありなのではないでしょうか。(え?ない?)

 たしかに、藤木はかわいくない新入社員だったと思います。ある日部長に呼び出され、進行中のプロジェクトの細かい部分を問いただされました。私が説明すると、部長は「オレは、聞いてないぞ」。言いたいことがあるなら、ストレートに言えばいいのに! 持って回った言い方をされ、不愉快になった私は「ええ。言ってないです」。ああ! 部長を怒らせてしまいました。今なら分かる。「藤木、それは、あかんと思うぞ」。

 都合4年間酒造会社にいましたが、こんな藤木でもかばってくれる先輩、上司がいました。先輩、上司には、感謝しています。藤木も度量を広く持たなければ! もう4●歳になるんだし。

 会社で鍛えられたことは、弁護士になった私の血肉となっています。「パワハラ」は忌避すべき行為ですが、「タフ」であることが求められる仕事もあります。人財の育成はいつの時代も難しい。

執筆:弁護士 藤木 秀行

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