Q&A サイニング・ボーナスの注意点


 

Q 当社は、経験者を従業員として中途採用した際に、いわゆるサイニング・ボーナスとして、雇用契約時に年俸の25パーセントを支払いました。その際、「2年以内に自主退職した場合は、その全額を返還する」という条項の入った覚書を作成しました。

その雇用契約からまだ1年余りですが、先日、その従業員が自主退職の相談をしてきました。そのため、サイニング・ボーナス返還の覚書のことに言及したところ、難色を示されました。双方納得して「覚書」を作成したのですが、法律上の効果はどうなるのでしょうか。

A サイニング・ボーナスの退職による返還合意の有効性は、裁判例でも争われたことのある争点です。裁判例においては、返還規定が「労働者の意思に反して労働を強制することになるような不当な拘束手段である」とされて、労働基準法違反とされて、無効とされた例があります。

サイニング・ボーナスの性質や、金額などの諸事情によって、ケース・バイ・ケースではありますが、いわば、従業員が辞めにくいような効果が返還規定にある場合は、無効とされる可能性が高いと思われます。詳しくは、ご相談ください。


Q&A 遅刻に対する罰金制


 

Q 当社は飲食業で、従業員の遅刻を防止するため、かなりの昔から、「遅刻1回につき、罰金5000円」というルールがあります。もっとも、実際に適用された事例は、最近はないようです。

 先日、ある従業員から、そのようなルールの存在自体がおかしいという指摘を受けました。どのように考えればよいでしょうか。

A そのようなルールは取りやめることをお勧めします。そのような「罰金」は、法律的な整理では「減給処分」という「懲戒処分」に該当します。「懲戒処分」ですので、就業規則に根拠が必要であり、懲戒の必要性と処分の相当性が求められます。

 従業員に非があるとはいえ、従業員の給与を減らすというのは重大な出来事であり、厳格な手続きが必要です。そのため、コンプライアンスの観点から、上記のルールには非常に疑問があります。

 遅刻を防ぐ方法としては、他の方法を採用されることをお勧めします。例えば、遅刻のたびに「遅刻報告書」を提出させ、一定期間内に複数回となると、懲戒処分を検討するという方法などです。

 なお、「遅刻による不就労分の賃金控除」は可能です。詳しくは、社会保険労務士や弁護士にご相談ください。


Q&A 労災の民事賠償

 

Q 当社の工場で,業務中,従業員が怪我をしました。労災保険の給付を申請し,労災指定病院で治療を受けています。先日,その従業員のご家族の方から連絡があり,会社からの損害賠償金について質問を受けました。当社の会社としての法的責任については,どのように考えればよいのでしょうか。

A 労災の給付があった場合でも,使用者に安全配慮義務違反などがある場合には,法的責任を負うことになります。この安全配慮義務違反があるか否かは,分かり易くいえば,「事故防止に必要な安全措置を講じていたといえるか」で判断されます。労働安全法や諸規則への違反がなければ,それで責任がない,というものではなく,具体的な状況の下で,必要な安全措置が講じられていたかが焦点となります。

 まず,貴社とされては,怪我をされた従業員さんへの社会的道義的な対応をされるとともに,法的な責任の点についての方針を決定するため,事実関係の綿密な調査をされることをお勧めします。

 万一,責任が認められる場合であっても,過失相殺の争点が出てきます。また,賠償額は,労災給付があった限度で減額されます。詳しくは,弁護士にご相談ください。


医療法人の事業承継 その1 ~持分あり医療法人について~


 

1 「持分あり医療法人」の「持分」について

 平成30年末の時点においても多数の社団医療法人が,「持分あり医療法人」です(平成19年4月以降は,この形態での法人設立は認められていません)。「持分あり医療法人」では,出資者には,出資額に応じた払戻請求権が認められています。

 この「持分」は,医療法人の成長にともなって大きな財産となっており,その取扱いが,むしろ課題となっています。「持分」を持った社員が退社にあたって,払戻請求をした場合,原則として医療法人はその払戻請求に応じる義務があります。また,社員に相続があった場合,「持分」はその社員の相続財産となり,社員の相続人は「持分」に対する相続税を負担することになります。仮に一部の出資者が「持分」の放棄をした場合は,他の出資者は贈与税を負担することになります。

 実際によくあります例は,医療法人設立当時,あまり意識しないまま,院長やその親族を出資者としていた場合です。このような場合,上記の税金の点のみならず,「持分」の分散や退社に伴う払戻請求など,事業承継に関わるリスクを抱えていることになります。

2 持分なし医療法人への移行

 対策としてまず考えられますのは,「持分なし医療法人への移行」です。厚生労働省が積極的に推進しており,税理士事務所からの提案を受けられたことがおありかもしれません。もっとも,この移行には,相続税,贈与税の特例措置についてハードルがあり,必ずしも容易な選択肢であるとは言いきれません。

3 「持分なし医療法人への移行」を選択しない場合の事業承継

(1)税金対策と事業承継対策は異なります

 最近,「せめて相続税を減らそう」という観点から,生命保険の利用や生前贈与を勧める書籍やセミナーが増えているように感じます。しかし,これらの税金対策は,事業承継の対策とは,必ずしも一致しません。税金対策に目を奪われて,遺言がないまま,推定相続人の公平を維持する方策を全く取らなかったことが原因で,大きな相続争いとなり,経営に支障が出かねない事態になった例もあります。

(2)生前贈与と遺言をベースとした対策

 「持分あり」を維持する場合,ケース・バイ・ケースなのですが,やはり,院長の「持分」については,生前贈与と遺言をベースとするのが最も穏当であると考えます。つまり,院長がお持ちの「持分」を,医業承継者に承継させつつ,他の推定相続人への配慮を行う方策です。

 今回の民法改正において,遺留分の算定にあたって持ち戻す「特別受益」が相続発生から10年以内のものに限定されたこと(2019年7月1日施行)により,遺言の活用方法は広がったといえます。

4 弁護士の活用方法

 事業承継とその先を見通すとなると,遺産分割や遺言執行についてのノウハウ・経験が必要となります。その観点から弁護士の活用は非常に有益であるといえます。

 弁護士が,顧問税理士の先生方,FP・コンサルタントの先生方と一緒に,様々なプランをご提案いたします。一度,弁護士への相談をご検討ください。


医療ツーリズムの潮流


 

1 医療ツーリズムとは…

 一般に、患者が自分の治療に相応しい医療機関で受診するため、海外へ渡航することをいいます。最先端の手術を受けるために著名な海外の病院へ向かう例はもちろん、美容形成や人間ドックのために海外へ行く場合も含まれます。(経済産業省は、「医療渡航」という用語を使っています。)

 この医療ツーリズムは、世界中で拡大しています。医療ツーリズムの受入れを国家戦略に掲げる国もあります。特に、タイ、マレーシア、韓国、シンガポールは積極的です。はっきりとした統計はないのですが、年間マレーシアは86万人、韓国は30万人という統計があります。

2 日本での受入れの実情

 日本の場合、「医療滞在ビザ」を取らずに、「短期滞在ビザ」で通院や人間ドック受診が可能です。そのため、実数は把握されていません。経済産業省作成の資料では、「数千~万人/年」という表現がされています。「医療滞在ビザ」の発給件数は、2016年は1307件でした。2012年と比較して、約6倍の増加となっています。
 経済産業省や観光庁は、積極的に、受け入れを推進しています。国際的な認証であるJCI(The Joint Commission International)の認証を取得した国内の医療機関は、平成21年は1施設でしたが、平成30年末の時点で26施設にまで増えました。
 今のところ、日本への医療ツーリズムで割合が多いのは、アジア各国からの人間ドックの利用のようです。医療機関の中には、英語や中国語を話す医師、看護師、事務職員を配置している例もあります。
 今後、医療ツーリズムが幅広く浸透していくなかで、医療ツーリズムの受入れは、より多くの医療機関の選択肢となっていくでしょう。

3 想定されるリスクと弁護士の活用方法

(1)文化の違い、関係者が多いこと

 このように期待の広がる医療ツーリズムですが、どのようなリスクの芽があるでしょうか。まずは、患者さんが日本の医療現場の慣行に慣れていらっしゃらないことから、「誤解」が生じやすいことです。普段の日本語の「同意書」を外国語訳するだけでは大変危険です。患者さんの文化的背景を踏まえてしっかりと対応・フォローができる医療コーディネーターとの連携は大切です。
 もっとも、医療コーディネーターや医療通訳など関係者が多いことによる連絡・連携ミスも起こりがちです。

(2)弁護士の活用方法―医療機関側の立場

①医療コーデ―ネーターとの契約

 まず、医療コーディネーターとの役割分担をはっきりさせるために、明確な契約を締結する必要があります。具体的な契約交渉となった場合に、契約条項の検討や代替案の提案などのバックアップいたします。さらに、弁護士に交渉の代理人を依頼いただく方法もあります。

②患者さんとのトラブル

 患者さんとのトラブルが発生した場合は、医療機関の責任の範囲を確認したうえで、迅速かつ円満な解決となるようアドバイスをいたします。
 万一、医療機関側から患者さんに、診療費等の未払を請求するとなった場合、患者さんが帰国した後であれば、任意の履行はほぼ不可能であり、訴訟を検討することになりますが、これはいわゆる国際訴訟となってしまいます。たとえば、中国と日本では、いずれの国で裁判したとしても、その裁判所の判決は、もう一方の国では強制執行できません。このことからもトラブルの「予防」が極めて大切ですが、万一の場合は、迅速な現実的解決の方法を弁護士が助言いたします。

(3)弁護士の活用方法―医療コーディネーター、旅行会社側の立場

①医療機関との基本契約の締結

 医療機関との間で、「業務委託基本契約」や「販売代理店契約」を結ぶことになりますが、その契約交渉は慎重に進める必要があります。医療コーディネーターや旅行会社の立場を超えたような不合理な責任を負わされないのか、貴社の強みや特徴が活かせるような役割分担になっているのかを検討する必要があります。契約条項を弁護士が分析し、修正案と交渉方法をアドバイスいたします。

②患者さんとのトラブル

 患者さんとの「コーディネート契約」についても、貴社の責任と役割の範囲が明確に規定されているのかを慎重に検討します。診療費の支払いや送金方法、精算方法など、細かく規定すべき事項は多岐にわたります。
 患者さんとの間で、キャンセル料の未払や精算のトラブルが発生しないシステムとなるよう、万全を尽くします。契約条項案を弁護士が分析し、修正案と交渉方法をアドバイスいたします。
 患者さんからのクレームが発生した場合は、法的責任の有無を判断したうえで、早期解決のためのアドバイスをいたします。代理人としての交渉を弁護士にご依頼いただく方法もあります。

(4)まとめー弁護士によるトラブル予防

 トラブルを予防し、万一の発生時に早期解決を図るために、弁護士が出来ることは沢山ございます。日頃から相談できる顧問弁護士はお役に立てるはずです。一度ご相談ください。


Q&A 未払残業代と源泉所得税等の控除


 

Q 当社は,従業員から過去2年分の残業代の請求を受けました。今後,精査したうえで,金額の交渉をするのですが,所得税や社会保険料は,どのように取り扱えばよいのでしょうか。

A おおまかな考え方として,「給与」として支払う場合は,源泉所得税や社会保険料の控除が必要となります。従業員が残業代を計算して請求してきた事案であれば,その支払は,やはり「給与」であって,源泉の処理が必要になるのが原則だと思われます。

 もっとも,従業員に支払うのが「実質的な損害賠償」(名目は解決金や和解金)であれば,その処理は必要ではない,ということになりますが,この扱いは,残業代請求が主たる争点ではなく,他に大きな争点がある場合(従業員の地位の確認など)に用いられていると思います。

 具体的にどのような経理処理をするのかは,ケース・バイ・ケースになります。そのため,交渉に入るのに先立って,貴社の税理士の先生や社会保険労務士の先生と相談され,控除の要否とその金額の見込みについて,予測をお立てになることをお勧めします。弁護士に交渉を依頼される場合であっても,税理士,社会保険労務士との連携が有効な事案であると思います。



Q&A 退職届の撤回


 

Q 昨日、当社の従業員が「退職届」を提出しましたが、今日になって、「「退職届」を撤回して、このまま会社に居たい」と言い始めました。この場合、退職届は無効になるのでしょうか。実は、この従業員は、職場での金銭トラブルや無断欠勤などがあり、当社としては自分から退職届を出してくれて、少しほっとしていた、という事情があります。

A 非常に微妙なケースだと思われます。結論から申し上げますと、会社が「退職届」を「承諾した(受理した)」という事実が立証できるか否かにかかっていると考えます。
「退職届」の法的性質は、一般的には、「合意退職の申込」と解釈されており、会社の「承諾前」は撤回でき、「承諾後」は撤回できません。
その「承諾」があったか否かは、例えば、「退職届の受理証明書」を発行していれば明らかですが、発行していない場合は、その際の客観的な具体的事情(会社側の担当者の発言等)から、立証できるか否かにかかっています。非常に重要な局面ですし、微妙なケースだと思われますので、詳しくはご相談ください。


Q&A 休もうとしない従業員への休職


 

Q 当社の従業員で、日頃の言動からメンタルヘルス不調の可能性がある者がおります。理由もなく深夜職場に居続けたり、シフト日でないのに職場に来たりして、全く休もうとせず、心配しております。先日、直属の上司から、受診と有給消化を打診しましたが、全く聞こうとしません。会社としては多少無理にでも、休むように説得しようと考えていますが、法律的にはどのような流れになることが予想されるでしょうか。
A まずは、本格的に面談を設定して、心療内科などの受診と休養について話し合うことをお勧めします。話し合いが付かない場合は、会社としては、安全配慮義務がありますので、「業務命令として受診」の命じ、また、状況次第では、労務提供を拒否し、「休職命令」を出すことを検討することになると思います。休職命令を検討される場合は、「就業規則」の休職規定に沿って行うことになりますので、「就業規則」の規定をご確認ください。このようなケースは、心身の安全を最優先して毅然とした対応を取る中にも、従業員さんの意思を尊重する姿勢も大切だと考えます。詳しくはご相談ください。


感謝の会を開催いたしました。


 

平成30年12月2日、当生駒事務所が創立10周年の節目を迎えたことから、日頃のご愛顧に感謝し、顧問先企業様をはじめ、お世話になっている方々をお招きして、「感謝の会」を開催させていただきました。

当事務所一同、より一層励む所存にございますので、新たな10年を歩み始めました当事務所を、今後とも宜しくお願い申し上げます。

 

 


Q&A 福祉サービスの利用者のご遺族からの開示請求


 

Q 当社は福祉事業所ですが、利用者のご遺族の一人から、利用者の方の生前の利用サービスの情報の開示を求められています。ご本人からの開示請求は今までも例がありましたが、ご遺族の方からの請求は初めてで、しかも、一部の相続人の方だけに開示すると、当社もトラブルに巻き込まれないかと懸念しています。
どのように対応すればよいでしょうか。

A 最も参考になるガイドラインは、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(厚生労働省)だと思われます。このガイドラインによると、遺族への情報提供も、原則として、本人からの請求と同じように取り扱うよう求めています。もっとも、本人の生前の意思、名誉等を十分に尊重すること、診療録の開示を求められるのは、患者の配偶者・子・父母及びこれに準ずる者とするなど、開示の範囲・方法等については慎重な検討が必要です。
また、ご指摘のように、トラブルに巻き込まれないという観点からは、一部の遺族からの開示請求があった場合に、そのまま応じることがよいのか、他の遺族の方々の意思を確認する機会をもったほうがよいのかの判断は、ケース・バイ・ケースになると思われます。詳しくは、弁護士等にご相談ください。


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近鉄「大和西大寺駅」の中央改札口を出て、右方向(南側)に進み、地上まで降ります。
バスロータリーから南に向かって直進し、一つ目の信号を越えた左手に「奈良商工会議所会館」のビルがあります。
その1階に弁護士法人ナラハ奈良法律事務所があります。

自動車

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「大和西大寺駅」南側のバスロータリーより一つ手前の信号の右手に「奈良商工会議所会館」のビルがあります。
その1階に弁護士法人ナラハ奈良法律事務所があります。

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