解雇のトラブル、残業代のトラブルなど、労働者との間のトラブルが行き詰まると、「訴訟になる」というイメージがあるかもしれません。実は、「労働審判」という手続きが広く利用されています。「訴訟」になるのか、「労働審判」に進むのかは、法律で決まっているのではなく、裁判所に申立てをする労働者側が選択するものです。このコラムでは、「訴訟」と比較した「労働審判」の特徴について、説明します。
「労働審判」は、訴訟と違って、スピーディーに進みます。2、3か月のうち、早ければ1か月で勝負を決める、というスケジュール感覚です。全国の統計をみても、3か月以内に約75%の事件が終了しているようです。
解決の仕方で多いのは、「調停」です。労働審判員の仲介で、解決条件を交渉し、合意を目指す手続です。
期日は原則3回までとなっていますが、最初の第1回目が山場です。2回目以降は、解決条件の交渉がメインです。事案によっては、第1回期日で解決することもありますし、第3回期日は開催されないこともあります。
そのため、使用者側としては、第1回期日に向けて全ての主張・証拠を出し切る準備が必要です。第1回期日で当方の主張をしっかりと労働審判員に伝え、調停での条件交渉をより有利に進めていくことがポイントです。
場所は、裁判所内の法廷で行われますが、訴訟の法廷ではなく、「ラウンドテーブル法廷」という会議室のような部屋で行われるのが通例です。訴訟と違って、非公開です。原則として、本人の出席が求められます。手続を進めるのは、労働審判官1名(裁判官)と労働審判員2名(非常勤の国家公務員で、1名ずつ推薦母体が使用者側団体、労働者側団体になるよう選ばれるのが通例)です。
調停が成立した場合には、調書が作成され、これには裁判上の和解と同一の効力があります。
調停が成立しない場合は、「労働審判」が言い渡されることがあります。例えば、「解決金として○○○万円」と具体的に金額が示されます。この「審判」に当事者から異議申し立てがあれば、通常の訴訟に移ります。なお、双方の主張があまりにかけ離れていると、「審判」が出されないことがあります。
さきほど説明しましたように、第1回期日までの準備が重要です。しかも、ほとんどの事案では、当日まで3週間程度しかなく、第1回期日の日程の延期は認められていません。
弁護士に依頼すれば、当該事案でのポイントを見極めたうえで、第1回期日までに提出する資料を作成できます。当日は、代表者の方と一緒に出廷し、当方の主張を説明し、裁判官からの質問に回答します。どの順番で、どんな事項に焦点を当てて説明すれば有利であるか十分に検討したうえで出廷しますので、労働者側からの誤解を解き、会社側の理由ある主張を、明確に裁判官に伝えることができます。
弁護士に依頼するメリットとしては、調停において、どの条件で受諾すべきかの見極めです。
残業代請求の場合、訴訟に進展すると、「付加金」という制度があり、判決で残業代が認定された場合、会社側が支払う金額が倍額になる可能性があります。そのため、残業代が判決で認定される可能性がどの程度なのかの見極めをつけることが非常に大切になります。
解雇の事案の場合、訴訟に進展し、判決で「解雇無効」となった場合、会社で雇い続けるという結果となります。
このように、「訴訟となった場合の結果」の予想を踏まえながら、労働審判において、紛争を終わらせたほうが有利であるのか、それとも、訴訟に持ち込んだほうが有利であるのか、という判断をすることができます。
懲戒解雇が無効だとして、元社員から、雇用関係が続いていることの確認を求める労働審判が起こされました。元社員は、自分はミスをしていない、ミスをしたのは他の社員だということを全面的に主張し、それらしい証拠を提出していました。
会社から弁護士が依頼を受けた後、元社員の提出した書類を見ると、このままでは労働審判員の心証は危ないと考えました。そこで、会社の方々と一緒に、関係資料一切を徹底的に調査し、同僚からの聴き取り調査、工場の機械の稼働状況の記録との突合を行いました。その結果、元社員の主張には、無理があることが判り、その点を指摘する分かり易い書類を作成し、労働審判に提出しました。結果的に、当初の想定よりも相当有利な条件で解決をすることが出来ました。
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