ハラスメント相談担当者・相談担当部署のリスク・マネジメント

 職場におけるパワーハラスメント対策、セクシュアルハラスメント対策、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策が事業主の義務となりました。
 みなさまの職場におかれても、相談窓口が設置されているところが増えているのではないでしょうか。
 今回は、相談担当者・相談担当部署のリスク・マネジメントについて、見ていきましょう。
(本稿では、社内の社員が担当するケースを想定しております。)

1 ハラスメント相談対応に潜むリスク

(1)被害者へのヒアリング

 ある労働者がハラスメントの被害を訴えました。この場合、まずは、相談担当者が被害の内容を聞き取ることになるでしょう。
 ここに、一つ目のリスクがあります。
 やってしまいがちな対応なのですが、加害者側の内心を推察する発言をすることです。典型的には、「加害者は、あなたのためを思って、そのような言動をとったのではないでしょうか」などという発言です。
 このような推察が、正しいか、間違っているかは、問題ではありません。
 このような発言が、「加害者側の味方をしている」ような印象を与えることが問題なのです。
 ここで、一つ目の「リスク・マネージメント」。
 被害の内容を聞き取る場合は、「聞き取る」ことに徹しましょう。

(2)加害者へのヒアリング

1被害者情報の秘匿の問題

 被害者から聞き取りをした後は、加害者側の弁解を聞き取ることになるでしょう。
 ここに、二つ目のリスクがあります。
 これもやってしまいがちな対応なのですが、被害者の氏名を秘匿する、ということ。
 被害者が「名前は出さないで欲しい」と要望することがあります。
 たしかに、真に機微に触れる事案であれば、被害者の氏名を秘匿しなければならないこともあるでしょう。
 しかし、加害者側からすれば、「被害者が誰か分からなければ、適切な防御(弁解)ができない」という事情もあります。その後の措置が効果を発揮しない事態を生起しかねません。
 ここで、二つ目の「リスク・マネージメント」。
 被害者の氏名を秘匿するか否かは、ていねいに検討しましょう。
 そして、秘匿することにした場合は、ハラスメントが起きたとされる日時、場所、経緯などをできる限り特定し、適切な防御(弁解)の機会を与えましょう。

2「事実」ではなく「評価」に基づいたヒアリングの問題

 さらに、加害者側の聞き取りにおける、三つ目のリスクについて述べます。
 よくある聞き取り方法ですが、評価的・抽象的な聞き取り方になってしまう、ということ。例えば、「Aさんに対して、恫喝するような発言をしたことはありますか」というような聞き取り方です。
 「恫喝」というのは評価であって、「事実」ではありません。加害者が「恫喝したつもりはない。地声が大きいのです。」などと反論すれば、あながち、これを虚偽とすることは難しくなります。事実に基づかない質問に対しては、加害者から適切な答弁を得ることができない、ということです。
 それどころか、加害者側に「私の言動を『恫喝』などと評価するのか。聞き取り担当者は、被害者の肩を持っている。」と受け取られるリスクがあります。
 ここで、三つ目の「リスク・マネージメント」。
 聞き取りは、「具体的な事実に基づいて」行いましょう。
 そのために、最も大事な準備は、2の被害者側から聞き取る段階にあります。
 被害者からの聞き取りは、具体的な生の事実を語ってもらうようにしましょう。

2 事実関係の調査におけるポイント

 「加害者が、素直に、加害行為を認める」と、調査はスムーズに進みます。しかし、「加害者が、加害行為を認めない」というケースも、決して、珍しくありません。そこで、大事なのが証拠です。暴言なら録音、暴力なら動画、メールや書面による嫌がらせならメールのプリントや当該書面を提出していただくようにしましょう。

3 加害者に対する処分の決定

 最後に、措置を講ずる段階について述べます。
 ハラスメントに対して、措置を講ずるか、検討します。
 あわせて、人事上、懲戒処分をするか、検討します。
 措置、懲戒処分、これら二つの側面があることを意識したいところです。
 措置としては、配置転換、行為者からの謝罪、関係改善援助、不利益回復、職場環境回復、メンタルケアなど、検討します。
 懲戒に値する場合は、けん責、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇などの処分をすることになるでしょう。ただし、懲戒処分をするためには、就業規則等に懲戒の定めが必要です。

4 会社としての再発防止策の実施

 懲戒処分をすれば足りる場合もあるとは思います。しかし、一般的には、被害者へのケアや、職場全体への啓蒙も必要となることが多いのではないでしょうか。
 すなわち、措置は、懲戒とは別個の問題だということです。加害者や被害者双方への対応を検討することになります。例えば、配置転換、謝罪、関係改善援助、不利益の回復、職場環境の回復、メンタルケアなどの措置です。また、職場全体への啓蒙としては、ハラスメント研修の実施などの措置です。ハラスメントの措置は、狭く加害者を処分する趣旨の制度ではなく、広く職場環境を改善する趣旨の制度であることが肝要だと考えます。
 そこで、四つ目の「リスク・マネージメント」。
 措置は、職場環境を改善するために広い視野に基づいて行いましょう。

 以上、ハラスメント相談担当者・相談担当部署のリスク・マネジメントについて、見てきました。みなさまの参考になれば幸いです。

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